2004年1月~3月に土地などを売却した人たちから、数件の訴訟が提起された事件がありました。
2004年4月1日から施行された改正法が、それより3か月前の2004年1月1日以降の譲渡に遡及して適用されたことから起こされたものです。改正法は、土地建物の譲渡損失の通算を禁止するという内容でした。
それまでは、土地建物の譲渡から生じた損失は、他の所得の黒字から差し引くことができました。トータルでの所得を圧縮できる制度であるため、納税者にとってたいへん有利な規定だったといえるでしょう。
改正法は納税者からすれば不利な内容であり、さらに施行日より過去の取引に遡って適用されることを意味します。そこで、これは「遡及立法禁止の原則」に反するのではないかとの裁判が提起されたのです。
具体的には、納税者は、憲法84条(租税法律主義)の内容として「遡及立法禁止の原則」があること、そうであれば当該法令は無効になると主張しました。
これらの訴訟について、ある裁判所は違憲の判断をしましたが、合憲の判断をした裁判所もあります。また合憲の判断の前に、「施行日(2004年4月1日)より前の取引に遡る改正法の適用について遡及立法にあたる」と考える裁判所と、「そもそも遡及立法にあたらない」と考える裁判所に分かれました。
遡及立法にあたるとした裁判所の判断は次のとおりです。
「遡及適用とは、新たに制定された法規を施行前の時点に遡って過去の行為に適用することをいうと解すべきである」
「施行前である同年1月1日から同年3月31日までの建物等の譲渡について適用するのであるから、遡及適用に該当するというべきである」
上記の通り判示したうえで、遡及適用にあたることを認定し、結論として「違憲である」としました。
「遡及立法禁止の原則」が憲法84条の内容として含まれていることを明確にしています。
一方、遡及立法にあたらないとした裁判所の判断は次のとおりです。
「所得税の納税義務は暦年の終了時に成立するものであり(国税通則法15条2項1号)、措置法31条の改正等を内容とする法改正が施行された2004年4月1日の時点においては同年分の納税義務はいまだ成立していないから、本件損益通算廃止に係る上記改正後の同条の規定を同年1月1日から同年3月31日までの間にされた長期譲渡に適用しても、所得税の納税義務自体が事後的に変更されることにはならない」
そして憲法判断については「課税関係における法的安定が保たれるべき趣旨」が憲法84条に含まれているとし、合憲としました。
皆さんは、どちらの考え方が相当と思われますか?
ちなみに、「遡及適用にあたらない」と判断したのは、最高裁です。
論点は大きくズレますが、むしろこのこととは別に、国が遡及適用までして改正に動いた「本来の目的」は何だったのかに注目すべきかもしれません。